筆の動く儘に

妄想と創作の狭間を漂流する老人のブログ

人間なんて

 何気なく興味本位で覗いたリサイクルショップ。人目を引くように店の外にも商品をたくさん並べてある。店の中は狭くて薄暗くてまるでジャングルのようだ。ドンキホーテもジャングル式陳列で有名だがそれとはまた少し質が違う。汚部屋と言うと大体の雰囲気はお分かりいただけると思う。いろんな人の生活臭が染み込んだ物が溢れているからこういう店はこれでいいのかもしれない。いらなくなった物を処分する人間がいるかと思えばそれを買いに来る人間もいる。結局人間なんて崇高じゃないことのほうが皮膚感覚で共感できるのかもしれない。
 店の中をグルグル回り興味津々で商品を眺めていると床に置いた段ボール箱に目が留まった。箱の中には五十枚くらいのレコードが入れてある。当然ジャンル分けなどされていない。面白そうなので一枚ずつ見ていくと吉田拓郎の「人間なんて」があった。レコードの値段はどれでも一枚四十円で三枚買うと百円になるというのがこの店の料金設定である。これは買わない手はないと思い四十円払って吉田拓郎の「人間なんて」を手に入れた。
 

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アルバムの表紙
 
 
 このアルバムは一九七一年に発売されたアルバムで拓郎がエレックレコード株式会社から出した最後のアルバムである。ジャケットは当時拓郎が住んでいたアパートで撮ったそうだ。拓郎の話によるとエレックという会社はひどい会社で印税を全く払ってくれなかったそうだ。五万円とか十万円の給料をもらうとこのアパートの部屋に洗濯ばさみで一万円札を吊るしておいて必要な時に洗濯ばさみから外してポケットに入れたそうだ。お札を洗濯ばさみから外す時の情けなさは今でも忘れられないそうでいよいよお札があと二枚くらいになると妙に心細くなり思わず将来を考えて銀行に一万円を貯金しに行くという以外に堅実な一面もあったそうだ。

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当時住んでいた拓郎のアパート


 
 で、アルバム「人間なんて」であるがこの中には十二曲収録されている。しかし私が知っているのは「人間なんて」と「結婚しようよ」の二曲だけである。なぜなら私は吉田拓郎のファンという訳ではないからである。知らない十曲がどんな曲なのか聞いてみたいのだが如何せん私はレコードプレーヤーを持っていない。だから聞きたくても聞けないのである。いつかはレコードプレーヤーを買おうと以前から考えてはいたのだがこれをきっかけに来年は是非買うことにしようと決意した。

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レコード盤


 
 下世話な話で恐縮だが、と言うよりしょせん人間なんて下世話な生き物だからこの四十円で買ったアルバムが今は本当は幾らくらいの値打ちがあるのか気なって仕方がない。ネットで検索してみると今このアルバムは千五百円~二千数百円くらいの価格で取引されているようだ。発売時の価格は千九百円である。その当時は消費税などない高度経済成長のイケイケどんどんの時代だ。その当時はこの店のオーナーの老夫婦も若くて時代を謳歌し当然レコードも聴いてたんだと思うが今はレコードなんて聴くこともなくなりもう単なる商品でしかなく四十円でも百円でも売れればいいのであろう。「時間は人を変え、時代は人を創る」これは私の名言であるが覚えておいて損はないと思う。 途中で読むことを止めずここまでたどり着いた方への私からのささやかなプレゼントである。
 
 一枚のレコードから四十数年の時を反芻させてくれた場末のリサイクルショップ。お宝を手に入れることが出来て一人悦に入っている私の頭の中では今「人間なんてララ~ラ~ララララ~ラ」が繰り返し繰り返し流れている。