筆の動く儘に

妄想と創作の狭間で漂流する老人のブログ

思いやりのかたち

お弁当を買いにスーパー万代へ行く。全てのレジが行列だったので各レジに並んでいる人数と、持っている籠の中身をチェックして早く順番がまわってきそうな列を選んだ。
並んだ列の先頭にいるレジ中のお婆さんはもう間もなく終わりそうだ。次はカゴ1個をほぼ満載にしたおばさん。ペットボトルのコーヒー2本のおじさん。カゴ半分に食料を入れそれを床に置いて順番を待っているお爺さんと続き、その後ろに税込321円の「バラエティーおにぎりセット」というお弁当を手に持つ僕。

レジ中のお婆さんの会計が終わりカゴ1個が満載のおばさんの順番になった時だった。ペットボトル2本のおじさんが大きな声で「あっちゃん、こっちこっち!」と叫んだ。カートの上段下段のカゴに満載の食料、そして手に持っているカゴも満載にさせてカートを押してくるあっちゃん。そのあっちゃんの姿を見た僕の前に並んでいるお爺さんの顔色が激しく変わった。僕の気持ちも同じだった。あっちゃんを呼んだおじさんは、今度はレジ向こうにある買ったものを袋に入れる台の場所を確保してあっちゃんのほうを見ている。最初このおじさんを見たとき「怪しい奴」と一瞬思ったのだがまさかこんなことになるとは夢にも想像しなかった。大の男のする事かと言いたかった。しかしレジ向こうの袋に詰める作業台であっちゃんを待っているこのおじさんを改めて観察すると挙動不審で目が泳いでいる。自分の直感にもっと正直であるべきだったと後悔したが時すでに遅しだ。しかも今更違う列にまわると益々遅くなる。僕の前に並んでいるカゴを床においているお爺さんはもう限界を超えてしまったようだ。床に置いてあるカゴを足で前方に押して移動したことでそれは分かった。お爺さんはもう天井しか見ていない。
ずいぶん時間がかかってやっとあっちゃんの番が終わりそうになった時お爺さんが僕に話しかけてきた。「弁当1個だけやろ、あんた先に行き」と、自分もイライラの極致のはずなのに僕に順番を譲ってあげるとそのお爺さんは言っているのだ。2度3度と辞退したが「かまへんからあんたが先に行ったらええ」と譲る気満々なので「今配達中で時間ないんです。ほんまに助かります」と答えてあげた。全然時間に余裕はあるのだが嘘も方便、潤滑剤というやつだ。財布から321円ちょうどを用意して素早くレジを通過するよう心掛けた。レシートを貰ってもう一度お爺さんに「ありがとう」と言った。

屋上の駐車場に戻るとさっきまでの曇り空がとうとう耐え切れなくなったのかパラパラと雨が落ちてきた。