筆の動く儘に

妄想と創作の狭間を漂流する老人のブログ

無菌都市(シニカルSF)

21世紀初頭、世界は疫病に襲われた。

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当初数年間は人類は極力罹患しないよう様々な対策を取っていたがそんなことは無駄な抵抗だった。だがこの命を守るためのこの対策が人の寿命を延ばしたのは事実である。これは喜ばしい事でもあり、皮肉な事でもある。

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最終的に人類は疫病との対決を諦め無菌都市を建設した。
その無菌都市を建設できるのは先進国だけであり、且つその国の3%の選ばれし人間だけなのである。

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(3%の人間と97%の人間との全面戦争が起き3%の人間が勝つのだがこの部分は割愛)


30年後
人類は当初の世代から2代目の世代に変っている。そして地球上では分断された環境の違う二つの世界で人々は生きている。
無菌都市で暮らした1世代目の人間は、我々こそが上級国民だと言わんばかりに97%の自然界に住む人間を蔑んできた。

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年月が経ち無菌都市が2世代目になるとその差別意識はさらに酷くなった。
しかしその2世代目が高齢者となった現在ではその地位は逆転している。
この数十年、自然界に住む人間はごく当たり前にウイルスや細菌と共生して来た事により様々な自然界の耐性、即ち免疫
を失わなかった。

自然界の都市は栄えた。

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一方、無菌都市の住人はまるで牢屋にでも入れられたような一生を送る事になってしまった。
彼らがもし一歩でも無菌都市を出て自然界に入ろうものなら一瞬で細菌やウイルスに曝露して死に至るのだ。
今では無菌都市で生きる彼らは自然界の人間から食料と衣服を与えられ生きている。

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小学校の遠足では児童が勉強のために無菌都市を見学するようになった。この見学はいわば遠足で動物園に行くようなものである。その際には児童は防護服を着せられる。これは無菌都市をクリーンに保つためだ。

そんな無菌都市の生き物を子供たちは「霊長目、
人科:上級国民」と習っている。

だがしかし、無力な3世代目や4世代目の彼らはそんな世界が当たり前の事として幸せに生きているのである。