筆の動く儘に

妄想と創作の狭間を漂流する老人のブログ

奥歯を噛みしめて

 私はどちらかというと肩が凝らない体質のようだ。肩凝りに苦しむ人は大勢いる。病気が原因の人、運動不足の人、仕事での姿勢やストレスあるいは神経質な性格が筋肉をガチガチにしてしまう人。お陰様で私の場合は楽天的な性格が肩凝りを遠ざけているのだと自己分析している。そんな私のことを鈍感で無神経な性格となじる人もいる。そんな人は大抵私に、人の気持ちなどこれっぽっちも理解できんだろうなどと言ったりする。その言葉をそっくりそのままお返ししてやりたくなるが楽天的な性格が「災いして」なのか「幸いにして」なのか私は嫌なことがあっても2~3時間もすれば忘れている。完全に忘れていなくてもかなり小さいものになっている。私は馬鹿なのかもしれない。

とはいえ私も生身の人間。漱石風に言えば「吾輩は人間である」である。2日前、左上の奥歯に痛みを感じた。なんだろうこの痛みは。虫歯でもないし歯茎が腫れているようでもない。これは・・・そうだあれだ。3日ほど前にやたら肩がつらかったことを思いだした。そう肩凝りから来る歯痛だ。昔から硬いものを噛み砕いて食べるのが好きな私にとってこれは翼の折れたエンジェルと同じくらいのダメージだ。昨日はさらに痛みが増し、右側の歯でしか物を噛めなかった。ただこの痛みは食べる時にだけ発生する。物を食べないときは全く痛くない。ただ何となく歯がボワーンとしているだけなのだ。

そして今日が来た。痛みは随分遠のいた。内田百閒だったか山口瞳だったかのエッセイに「遠くの方で誰かが呼んでいるような気がした。その声が少しずつ少しずつ近づいて来る」(大意)虫歯の痛みが襲ってくる様子をこう書いていた。今私の左上の奥歯の声は少しずつ少しずつ遠ざかっている。