筆の動く儘に

妄想と創作の狭間を漂流する老人のブログ

生きる場所

「お帰りなさい」知らない女が僕に言う。
「やぁ、お帰り」知らない男も僕に言う。
僕はいつも通り満員電車に揺られて会社へ行き、仕事をし、同じ課の連中と昼飯を食い、そしてまた満員電車に揺られて家に帰って来たはずなのに一体ここは何処なんだ。
朝家を出てからのことを何度も何度も反芻するがいくら考えても分からない。どうしようもなくなった僕は最初にお帰りと言った女に聞いてみた。すると女はこう言った。
「あなたはずうっとここにいて今日も一日あのテレビを見ていたのよ」
女が指差したのは古い四本足の壊れて何も映らない白黒テレビだった。
テレビの前に座布団が置いてある。触ってみるとまだ暖かい。恐る恐るその座布団に座りテレビの画面を見た。急に目の前が明るくなった。
「あら、あなたお帰りなさい。今日は早かったのね」妻がキッチンで夕食を作りながらそう僕に言った。「そうなんだ、A社との飲み会がお流れになってね・・・・