筆の動く儘に

妄想と創作の狭間を漂流する老人のブログ

力を抜いてみませんか

 

太陽のたの字も見えない分厚い灰色の雨雲。時に激しく時にゆるくそんな調子で一日中降る雨。夕方の高速道路は渋滞していて、でも止まる事なくゆっくりと進んで行く。雨の振り方に合わせてワイパーを動かしたり止めたりしながらトロトロ運転が続く。いつもはFMラジオを聞くのだがめずらしくAMラジオを聞いてみた。男性のパーソナリティと女性のアシスタントが聴取者からの手紙やメールを紹介してそこから話をふくらませている。手紙やメールの内容も話題の膨らませ方もどちらもとてもヌルくて力が抜けていく。何が面白いんだろう。そう思ったがふとこの番組はこういう味付けなんじゃないだろうかと思い直した。そう考えると聴取者のヌルい手紙やメールもパーソナリティのヌルいトークも納得できる。ネットやテレビに慣れてしまっていてこういう番組がヌルく聞こえるだけで本当はこういう内容を楽しく聞ける感性が健全なのかもしれない。

 渋滞を抜けたのか車が流れ出した。最後まで姿を現さなかった太陽も時刻通り沈んだようで外は真っ暗になっていた。高速道路を降りてしばらく走ると赤信号に捕まった。別に赤信号に追いかけられていたわけでも待ち伏せされたわけでもないがそういう言い方を人はよくする。信号待ちで右側を見ると電気屋さんがありお店の前にテレビを置いている。画面を見ると立川談志が落語をしている。もちろん音は聞こえない。「この人も死なはったなぁ」そう独り言をつぶやいてしまった。さっきのラジオで力が抜けていたせいかなんだか少し感傷的な気持ちになった。信号が青に変わった。正確には緑なのだが誰もそれを正そうとはしない。ゆっくりと車を走らせるとラジオから「遠くへ行きたい」が流れてきた。今はこの歌が妙にフィットする。ほんとに知らない町を歩いてみたくなった。