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筆の動く儘に

妄想と創作の狭間で漂流する老人のブログ

まだ陽は落ちていない

「やだ、もうこんな時間」 昭和の中頃にはどこの家庭にもよくあった振り子の付いた柱時計を見て女は一人呟いた。 柱時計が指していた時刻は"人生の夕方"だった。 「行かなきゃ」 春になり布団を外した炬燵の上に丁度いい角度で手鏡を立て、染みが目立たな…

記憶

左足の薬指が痛い。左足の薬指の先っちょが痛い。なぜ痛いのか記憶を辿る。ああそうだ。重いものを両手で持って足元が見えないまま運んだ時に床にあった硬くて重い物に左足の薬指をぶつけたんだ。なんで重い物を運んでたんだろう。ああそうだ。広いスペース…

下駄と仏壇と日本人そして

昭和が始まった日に生まれた勇造が志したのは塗師(ぬし)。塗師とは漆芸家や職工として漆を塗ることを生業とする人のことである。勇造は塗下駄の仕事に就いた。漆との格闘は大変だったが面白くもあった。が、時代は戦争に突入し勇造も徴兵され戦地に駆り出さ…

ミニシアター

ここはミニシアター。前宣伝をバンバン打ついわゆる巷で評判の映画を上映するのではなく、国籍やジャンルを問わず質の高い作品を上映するこじんまりとした映画館。予約していた前から五列目の中央の席に座る。館内は照明が照らされ予告のムービーもまだ始ま…